2024年秋号_vol.51 収録
芝浦工業大学の所々に左側の紙が貼られているのを見たことがありますか?これは、芝浦工業大学が出している、博士支援に関しての新聞記事です。
現在、文部科学省が「2040年における人口100万当たりの博士号取得者数を世界トップレベルに引き上げる」という目標を掲げています。日本の人口100万当たりの博士号取得者数は、他の国と比べて大きく後れを取っており、その数の減少傾向が続いています。芝浦工業大学も、博士の支援により力を入れ、博士の人数を増やすため、右のような対策を打ち出しました。
今回は博士課程がどのようなものなのか、アンケートやインタビューを交えてお伝えしていきたいと思います。
(取材・編集:大橋)
そもそも博士とは
ここでいう博士課程は、一般的に「博士後期課程」のことを表します。学部生の次の段階である修士課程は、「博士前期課程」と呼ばれます。博士課程は最短3年の研究を終えて十分な成果を挙げることで、博士号を取得可能になります。もし大学の教授を目指すなら、博士号の取得が原則必須となります。博士号を取ったらそのまま教授・・・となるわけではなく、助教・助手→講師→准教授→教授とキャリアアップを繰り返すことで、地道に目指していきます。「ポスドク」という言葉をご存じの方もいらっしゃると思いますが、ポスドクは任期のある研究職のことです。ポスドクの不安定な雇用や待遇の悪さが『ポスドク問題』として、しばしばメディアで取り上げられています。
NISTEP( ナイステップ )の博士人材追跡調査によると、博士課程への進学理由(図1参照)として「研究することに興味・関心があったから」「研究したい課題や問題意識があった」という研究に関する意見が多く見られました。一方で、「自身の能力や技術を高めることに関心があった」「博士号を取れば、良い仕事や良い収入が期待できるから」など、自身のキャリア形成に着目した意見も散見されました。また、博士課程修了後の雇用先機関(図2参照)としては、大学関係が51.7%と最多です。その他にも公的研究機関など、博士号を取った後は、研究機関に勤める人が多いようです。
博士の方へインタビュー
今回は、芝浦の博士課程地域環境システム専攻で学んでいるべイジアさんにお話を伺いました。
―――博士になろうと思った、または建築を志したきっかけを教えてください。
大学の教授である父親に憧れがあったからです。小さい頃から父を毎日見ていたので、結構前から研究者になりたいという気持ちはありましたね。父と同じ道を歩きたいと思った時に、博士になろうと決意しました。建築学部に行こうと思ったきっかけは、「大改造!劇的ビフォーアフター」という日本の番組です。不便だった建物が住みやすくなり、住民の人が笑顔になるところに惹かれました。留学先に日本を選んだのも、その番組に影響された部分があります。
―――べイジアさんが行っている研究はどういった内容のものですか?
人の毎日の行動から東京の熱環境を改善するための研究行っています。建築には技術と実用という側面があり、私は実用を重視した建築に興味があります。中でも、住んでいる人の生活環境、例えば温度や湿度が適切な状態かなどに気をつけて研究しています。
―――博士になって良かった点はありますか?
建築の知識を深く学習することができる点です。現在、私は建築熱環境について調べていますが、別の研究も合わせると約4年くらい研究をすることができています。学部で卒業する人は私が研究を行う時間分実践ができるので、事務や設計の実務経験が豊富です。一方で、修士や博士は自分の深めたい分野をより多く研究できるところが良いです。興味のある分野を持っている人に、博士を勧めたいです。
―――博士ならではのお悩みはありますか?
博士は新しい理論や発見が大事です。しかし、調査を始める前に私たちは、その発見がどう次に繋がっていくのかを、知ることができません。研究分野へ大きな貢献ができなくとも論文は書けますが、インパクトのある発見ができるとやりがいがあります。それは研究しないとわからないし、努力に対して成果が実らないこともあります。私も東京の熱環境改善を目標に研究を続けています。私が行っている熱環境に対する関心や緑化活動への参加の意欲度の調査は新しい試みですが、絶対に改善に貢献することが可能なのかは分かりません。せっかくなら役に立つような発見をしたいと思っていますが、難しいですね(笑)
―――博士は忙しいですか?
忙しいと思います。研究についてずっと考えることになるからです。博士に限らず修士も同じなのですが、研究する環境を整えるときが1番忙しいです。メールや電話でアポイントメントを取る時に、先方から返事が返って来ず2週間経過、なんてこともあります。アンケートをとっても集まる数が少なすぎたり。
―――学部生・修士の方へ、メッセージをお願いします。
本当に研究に興味があれば、博士に入った方がいいと思います。辛いことはあれども、24才以降に贅沢に時間を使って、研究を行うことは博士課程に進まないと難しいと思います。私は博士でできる体験として、対面での国際会議が魅力的だと感じています。研究の手法やデータについてだけでなく、国や文化のことなど、色々な事を話すことができます。同じ研究者の人と話すのは、その分野の経験としても、人生の経験としても、価値あるものだと思います。私は何回でも国際会議に行きたいです。あと、100人くらいの研究者が集まって、ご飯を食べたり雑談する場が設けられます。そこで食べるご飯がとても美味しいです。
―――それは最高ですね(笑)
博士後期課程奨学金
本学の博士後期課程における 1 年間の授業料・維持料は 841,800 円、入学金が260,000 円です(2025 年度)。学費を軽くしてくれる奨学金の情報は、インターネットなどで探すことができます。自分の研究に合った奨学金を探してくれるサイトも存在します。今回は芝浦工業大学の博士の奨学金のみを取り上げます。
芝浦工業大学ホームページ , 学費・奨学金 (引用日:2024 年 9 月 23 日)
博士(後期)課程給付奨学金
申請時期:出願時
給付額:(A) 年間学費等と相当額
(B) 年間学費等と半額相当額
<A・B 対象者>
⑴ 本学の理工学研究科修士課程に在籍する者で引き続き本学の大学院博士(後期 )課程に進学する者
⑵ 大学院博士(後期)課程進学の出願時に十分な研究業績を持つ者
<B 対象者>
A の採用対象外となった、社会で活躍する女性研究者・技術者の育成対象となる
芝浦工業大学校友会大学院博士(後期)課程
女性研究者育成奨学金
申請時期:出願時
給付額:年間 100 万円
(1) 本学の学部を卒業し、本学の大学院理工学研究科修士課程に在学する者で引き続き本学大学院博士(後期)課程に進学する女性
(2) 本学大学院博士(後期)課程進学の出願時に十分な研究業績を持つ者
なお、博士 ( 後期 ) 課程修了した後、将来、本学の教員としてのキャリアを希望することが望ましい。ただし、博士(後期)課程修了後の本学の教員としての着任は義務ではなく、また採用を約束するものでもない。また、校友会の活動に積極的に参加し、貢献すること
あとがき
私は博士後期課程に行くことをあまり考えていませんでした。しかし、日本の博士人材の現状や芝浦工業大学の奨学金を調べると、今日はこれ以上ないほど、博士の支援が充実しているのではないかと感じています。研究を志す人ならば、博士を将来の選択肢の一つに据えて考えるべきだと私は思いました。なぜなら、一生研究に向き合い続ける可能性があるからです。社会人になった後に、博士後期課程を取る人も沢山いるからです。博士のことを学んでおくことで、今後のより良い選択に繋がるかもしれません。この記事をきっかけに、博士に興味を持ってくれる人がいれば幸いです。